みなさんは「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」という漫画を知っていますか?
1度聞くと頭に残る意味深なタイトルだと思います。
この漫画は、言葉がスムーズに話せない吃音症(どもり)をテーマにした1巻完結の物語です。
2018年7月には、実写映画も公開されました。
作者は「惡の華」や「ぼくは麻理のなか」で有名な押見修造さんで、押見さん自身も実際に中学2年生の頃から吃音症を患っているようです。
だからこそこんなにリアルに描けたんだろうな、という感情が揺さぶられる描写がたった1巻の中にぎっしりと詰まっています。
そして、強い言葉を使うのは極力避けたいですが、全力でおすすめしたい1冊でもあります。
「普通になれなくてごめんなさい」から始まるマンガの紹介文で、僕はもう胸を打たれてしまいました。
“普通になれなくて ごめんなさい”ヒリヒリ青春漫画のマエストロが贈る、もどかしくて、でもそれだけじゃない、疾走焦燥ガールズ・ストーリー。“自分の名前が言えない”大島志乃。そんな彼女にも、高校に入って初めての友達が出来た。ぎこちなさ100%コミュニケーションが始まる――。いつも後から遅れて浮かぶ、ぴったりな言葉。さて、青春は不器用なヤツにも光り輝く……のか?
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吃音症がテーマの漫画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」のあらすじ・内容
吃音症を患う女の子、志乃ちゃん(大島志乃)。
志乃ちゃんは高校生になってはじめての自己紹介のとき、言葉が詰まってしまい自分の名前を言うことができません。
冒頭から引き込まれるので数ページ引用しますね。
怪我のような目に見える症状でもない。
周りのみんなは難なく(というか意識せずとも)できている「普通にしゃべる」ということができない。
志乃ちゃんは、クラスメイトにふざけているのかと思われ笑い者にされてしまいます。
先生にすらも吃音症を理解してもらえず「名前ぐらいは言えるようになろう?」と呆れられてしまいます。
詳しくは本を読んで確かめてほしいのですが、そんな辛いシーンや志乃ちゃんの葛藤がいくつも出てきます。
そんな過酷な学校生活を送りつつも、ひょんなことから志乃ちゃんに友達ができます(それもヤンキーの!)
その友達、佳代ちゃんとの出会いが志乃ちゃんの生活を一変させます。
加代ちゃんはギターが上手ですが音痴で、それをコンプレックスに思っています。
志乃ちゃんは吃音によりスラスラと喋ることは苦手ですが、歌っているときは吃音が発症しません。
そしてなにより「歌が上手」です。
唯一、そのことに気づいたのが加代ちゃんでした。
「ギターは上手だけど歌が苦手」な加代ちゃんと「喋ることが苦手だけど歌が上手」な志乃ちゃん。
そんな凸凹コンビな2人は筆談を通して友情を深め、なんと音楽活動を始めます。
やっと明るい未来が見えてきた志乃ちゃんの学園生活。
次第に笑顔の描写も増えていきます。
しかし、ある男の存在がそんな生活を徐々に壊していきます。
それは、志乃ちゃんのことをからかって笑い者にしていた菊池というクラスメイト。
そんな菊池はふたりの活動に感銘を受け、自分も一緒に参加したいとグイグイ接触してきます。
唯一の友達だった佳代ちゃんは、菊池と意気投合してどんどん仲良くなっていきます。
しかし、志乃ちゃんはその輪にうまく入ることができません。
結局、志乃ちゃんはまた孤立してしまいます。
ここまで見るとかなり重たく救いのない無いように思えますが、物語はとてもスッキリとした幸せな終わり方で幕を閉じます。
大島志乃と自分が重なってしまう実体験
言葉が詰まり笑われた学生時代
この漫画、僕はもう何回読み返したか分かりません。
それぐらい共感してしまうんです。
というのも、僕は吃音症ではありませんが、学生時代は極度の人見知りで人前に立つと言葉がつっかえてしまったりうまく話せない経験を何度もしてきました。
そして何度もそれを笑われてきました。
悔しさや涙を見せてしまっては負けだと思い、何ともないふりをして一緒になって笑い飛ばしごまかしてきました。
今考えるとあがり症だったんだと思います。
大人になり社会人になり、時間とともに少しずつ改善していきましたが今でも人前に立って話すことはとても苦手です。
「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」を読むと、当時の心境をブワッと思い出して心がピリピリしてきます。
いや、今から読む人を脅しているわけではなくそれぐらい胸に刺さる作品なんですw
現在も言葉の詰まりを意識してしまう
マシになったとはいえ、未だに美容室や飲食店の電話に緊張してしまう「名前が言えない」側の僕は、志乃ちゃんと自分が被ってしまうんです。
「なに言ってんの?」と思う人もいるだろうし、そう思う人の気持ちも理解できます。
でもそんなことに緊張して言葉が詰まってしまうことにビビり、ネット予約対応の店ばかり行く僕みたいなヤツも確実に一定数いるんです。
こんなマイノリティな気持ちわかってくれる人にはもちろん、「名前が言える」側の人にもぜひ読んでほしい作品です。
そしてぜひ、感想を聞いてみたいです。
「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の特に好きなところ
このマンガを語るうえで好きなところを挙げたら尽きません。
それぐらい大好きなマンガなのですが、個人的に特に好きな点を8つに絞ってまとめました。(これでも頑張って絞りましたw)
- 作品名・各話タイトル共に秀逸
- 「どもり」「吃音」「障害」といった言葉を一切使わず、あくまでもそれを個性として描いている
- 表情の描き方が恐ろしいほどリアル
- 人間関係を上手く構築できない描写がとても丁寧
- 1巻完結の短い物語なのに何年も余韻に浸れる
- コンプレックスを受け入れ人に優しくしようと純粋に思わせてくれる
- 作者の実話が元になった物語である
- あとがきがとてもグッとくる
挙げたらキリがないぐらい全ページ素晴らしいのですが、絞って挙げるとしたらこんな感じです。
素晴らしい作者の「あとがき」を読んでほしい
好きなところにも挙げましたが、作者であり実際に吃音症を患っている押見修造さんの「あとがき」がとても素晴らしいんです。
吃音症を患っているからこその苦労や、吃音症だからこそ活かせた漫画家という職業についても赤裸々に語っています。
ひとつは、相手の気持ちに凄く敏感になるということです。相手が自分をどう思っているか、変だと思われていないか、というのがすごく気になるので、人の表情や仕草から感情を読み取る能力が発達しました。これは、漫画で表情を描くとき、すごく力になっていると思います。
もうひとつは、言いたかったことや、想いが、心のなかに封じ込められていったお陰で、漫画という形にしてそれを爆発させられたことです。
つまり、吃音じゃなかったら、僕は漫画家にはなれなかったかもしれないということです。(出典:「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」より抜粋)
「吃音症」に限った話ではなく、僕のような「あがり症」な人もそうです。
容姿、運動神経、学歴…。
みんな本当は内に隠したい、恥ずかしいコンプレックスな部分を持っていると思います。
あとがき含めてこの「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」を読むと、それらをそっと肯定し、自分なりの明るい答えが出せるよう促してくれる作品だと思います。
「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」は実写映画が公開された
実写映画化も決まっていて、今年の7月に公開されました。
僕は劇場で鑑賞しましたが、とてもおもしろかったです!
キャスト(実写映画)
大島志乃 – 南沙良
加代 – 蒔田彩珠
– 萩原利久
– 小柳まいか
– 池田朱那
– 柿本朱里
– 中田美優
– 蒼波純
– 渡辺哲
– 山田キヌヲ
– 奥貫薫
スタッフ(実写映画)
監督 – 湯浅弘章
脚本 – 足立紳
吃音症がテーマの漫画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」が名作/まとめ
1巻完結のストーリーなのに、まるで長編の良作映画を見た後のような気分に浸れる漫画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」。
なかなかない吃音がテーマな漫画なだけあって、読み終わった後の感想は人によって大きく違ってくると思いますよ。
普段はマンガを読まない人にもおすすめです。
内容は重たいですが爽やかに幸せな最後(結婚して子供もいる)を向かえるので、年齢性別問わず安心して読めるストーリーとなっています。
僕は何度もこの作品に救われました。
興味がある人は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか?